『 崖の上で ― (1) ― 』
そこは はっきり言ってただの荒地だった。
海風が強いからだろう、大きな木はなく低木が数本変形して地にへばり付いているだけだ。
あとは もう草ぼうぼう・・・ 今は季節的に枯草がざわざわと侘しい音をたてている。
温かい時期には さぞかし獰猛に蔓延るつもりなのだろう。
「 ・・・ なに ここ ・・・ 」
フランソワーズは 仲間たちの一番後ろでこっそりと心の中で呟いていた。
「 こんなトコに ? ねえ 本気なの ?? 」
もちろん口に出したりはしない。
カサ ・・・ 彼女の靴の下で枯草が音をたてた。
「 うん うん ・・・ これはいい。 こんな場所を探しておったのじゃよ。 」
「 ほっほ 〜 気に入ってくれたかの、ギルモア君。 」
「 ああ 大いに気に入った! 人里離れていて海に近い。うむ うむ〜〜理想的環境じゃ! 」
「 ほい それはよかったのう ここの地権者とは顔見知りでの、口を利いてやろうぞ。 」
「 おお〜〜〜 それはすまん! 地元市民のコズミ君からの依頼なら二つ返事じゃろうて 」
「 ははは ・・・ この荒地だからなあ〜 手放せて大喜びじゃろうよ 」
老人二人は機嫌よく盛り上がっている。
「 うそ ・・・ ! 本気でここにするつもりなの??? え〜〜〜 」
彼女は心の中で思いっ切り喚いてみたが 表面上はごく控えめに皆の後ろに立っていた。
うっそ〜〜〜 ジョークやめてよね〜〜〜
最初に寄宿していたコズミ先生の家の方がまだマシだわ
そりゃあそこも海に近いけど・・・ ここよりはずっと内地よ?
緑に囲まれてたし 裏山の紅葉がとても素敵なのよね
あちらの近くではダメなのかしら・・・
「 そうだと嬉しいよ。 ここは海に直結できるからなあ ・・・
万が一の時のコトを考えると やはりここが一番じゃ。 地下格納庫も設置できるしな。 」
「 ・・・では やはりドルフィンはここに置くかい。 」
「 使わなくてすむことを祈りたいがね。 」
「 それはそうじゃなあ ・・・ 」
老人二人は感慨深けに頷き合う。
「 ふん ・・・ なかなかいい場所じゃないか。 海と空に直接でられるのは
大きな利点だな。 」
「 へへ オレ様は直接飛んできてもおっけ〜だよな? 」
「 バカ。 エリア内には米軍ベースもあるしたちまち < 網 > に引っ掛かるぞ! 」
「 ジョークさ ジョークだってばよ〜〜 」
「 ふむ・・・心晴れる場所ではあるな。 かのドーヴァーの白い崖に似ていなくもない。
ふふん 吾輩の創作意欲も湧くというものだ。 」
「 アイヤー〜〜〜 ええ土地や〜〜 ヨコハマにも近いよってワテも賛成やで〜〜 」
「 空と海が 触れ合う場所だ。 精霊たちも歓迎してくれている。 」
「 僕としては海に至近距離ってのは大歓迎だな。 ここの海には興味があるんだ。
あとでちょいと潜ってみてもいいかな? 」
仲間たちは大いに盛り上がっている。
「 ふむ ふむ そうかそうか ・・・ 諸君らも賛成してくれるか・・・
― ジョー? 君はどうだね。 ここは君の国だ。 」
博士はこれもずっと口を噤み、しかしにこにことしている009に声をかけた。
「 ・・・ え ・・・ あ〜 博士や皆が賛成ならぼくに異存はないです。 」
ジョーはごく普通に淡々と答える。
「 ふむ? では ここに研究所とワシらの家を建てようと思う。 」
「 博士? フランソワ―ズの意見、 聞いてませんよ? 」
「 ? あ すまん すまん ・・・ フランソワ―ズ 君の意見を聞かせてくれ。 」
博士は そして仲間たち全員が後にすこし離れて立っている彼女を見た。
「 え まあ あら。 皆さんの意見に賛成ですわ。 」
亜麻色の髪の乙女は 淡々と、そして従順そうに答えた。
「 そうか! それでは土地はここ、ということで ・・・
皆 希望があれば個々に出してくれ。 ここは皆の家になるのだからな。 」
博士はとてもとても嬉しそうに言った。
< 皆 > って。 だって皆帰国するのでしょう?
ココに残るのは 博士とイワン、 そして 009。
みんな 帰るのね ・・・ 帰るところがあるの ね・・・
ああ わたしは。 どこにも帰る場所が ない
パリは もうわたしの故郷ではなくなってしまったわ ・・・
涙がこぼれそうになったので 慌てて俯いた。
つん つん ・・・ 肩をこそっと突つかれた。
「 ?? 」
そっと振り向くと いつの間にかジョーが彼女の後ろに立っていた。
「 ・・・ なにか? 」
「 し〜〜 ・・・ あの どうかした? なんか顔色悪いし・・・
言いたいコトっていうか〜 意見があれば言ってもいいんじゃないかなあ〜 」
セピアの瞳が無邪気そうに笑っている。
「 べ べつに ・・・ ! 言いたいことなんてありませんけど! 」
「 あ そう? ごめん〜〜 ぼくの勘違いだったね、 ごめん〜〜〜 」
彼はぺこり、とアタマを下げた。
「 あ ・・・ そ そんな ・・・ 」
「 ごめん、ぼくってニブくて ・・・ 」
「 そんな・・・ あなた、とてもナイーヴな方だと思うわ。 」
「 えへ??? そんな風に言ってもらったの、初めてかもしんない〜〜
ともかくこの土地は ぼく達の < 家 > の土地にするんだって。 」
「 土地??? 」
「 ウン すぐに邸を建てるわけには行かないって 博士が。
まだ BGの残党とか襲ってくるかもしれないし 」
「 いや!! もう闘いのハナシは止めて! 」
「 あ しぃ〜〜〜 」
「 なんじゃ? なにか意見があるのかな・・・ 」
彼女が張り上げた声に 博士を始め仲間たちが振り向いた。
「 あ あ〜〜〜 えっとぉ ・・・ ちょっと意見交換してたんですけどぉ〜〜〜 」
「 ひょ〜〜〜〜 ナンの交換だってぇ〜〜?? ひゅ〜 ひゅ〜〜〜 」
すかさずヤング・アメリカンが嘴を挟む。
「 あ そ そんなんじゃ ・・・ 」
「 そうよっ いちいち煩いわ ジェット! 」
「 からかうのはやめろ。 博士のハナシの続きを聞こう。 」
厳しい口調で アルベルトがハナシを修正した。
・・・ なんだ またヒヨコたちの痴話げんかか ・・・
仲間たちは呆れ顔をしてすぐに視線を博士に戻した。
「 あ〜〜? いいかな? 少し脱線してしまったが ・・・・
それで ・・・っと。 ともかくこの土地を購入し我々の拠点とする。
ああ 勿論諸君らは帰国するなり独立するなり好きにして欲しい。
ただ ここに研究所兼基地を置くつもりなのでそのつもりでいてくれ。
メンテナンスはここで行う。 そして地形的にも理想的なので地下に基地を設置して
ドルフィンの格納庫を兼ねるつもりじゃ。 」
「 博士 それはいいですね〜〜 ドルフィンには最高の格納庫になると思うなあ・・・
海が近いってことは ― いいよなあ〜〜 」
ピュンマは 水平線に視線を飛ばし何回も大きく深呼吸している。
「 ふん ・・・崖っぷちってのは目立ちすぎないですか。 」
アルベルトはいつも慎重だ。
「 ふむ ・・・ 一応背後は山になっておるしステルス加工のバリヤーなんぞも設置する
予定じゃ。 ということで最終的な意見を聞かせてくれるだろうか。 」
「 了解。 俺は賛成です。 」
いぇ〜〜い ! 赤毛は派手にサムズアップをする。
「 海と空からエネルギーを取り込める。 ここは − 活力の源となる。 」
「 ワテはさっきも言うたよって。 おっけ〜やで。 」
「 吾輩も賛成票を投じよう。 」
「 あの ・・・ さっきはジャマしてすいません〜〜〜 あの ・・・
ぼく、いいと思います。 」
「 ― わたしは どこでも結構ですわ。 」
フランソワーズはぼそっと言うと それきり口を噤んだ。
ジョーがまたちらり、と彼女を見たが 彼女はまったく反応しなかった。
「 そうか! 諸君ら、賛成してくれるか。 ありがとう!! 」
ギルモア博士は破顔しとても嬉しそうだ。
「 博士 僕達もできるだけ手伝いますよ〜〜 邸はともかく基地の設置は
一般業者には任せられないでしょう? 」
「 そうだな。 先に邸を建設し、その後俺達の手で基地とドルフィンの格納庫、だな。 」
「 え〜〜〜〜 めんどくせ〜〜〜 」
「 てめぇのメンテもここでやるんだぞ! 」
わいわいがやがや ・・・ たちまち相談と段取りがまとまった。
「 おお おお ありがとう 諸君〜〜 」
「 ギルモア君、 そしてサイボーグ諸君。 取りあえず邸ができるまで
今まで通り我が家の研究棟に居てくれたまえ。 」
「 ・・・ コズミ君 ありがとう!!! 」
「 いやいや ワシも賑やかで嬉しいしなあ〜〜 」
「 きまり 決まり〜〜〜 ってことで〜〜〜 祝賀会だぜ〜〜 飲もう! 」
「 てめぇはそれっきゃ言うコトないのか! 」
「 まあまあ ええやないか。 ほな ・・・ 準備しまひょ〜〜〜 」
サイボーグ達は またまた賑やかにコズミ邸へと引き返していった。
・・・ こんな淋しい場所 ・・・ 住めるの??
また海の近く ・・・ イヤだわ、あの悪魔の島を思い出すわ・・・
― でも ・・・ わたしにはもう帰るところもないし
どこだって同じ ね ・・・
フランソワーズはきゅっと口を結び 足元に視線を落として集団の後についていった。
― 結局 邸の完成まで帰国希望組はこの地を離れることとなる。
大人とグレートはヨコハマに移り念願の中華飯店開業の準備を始めた。
・・・ 岬の家の住人は 博士とイワン、そして 地元出身のジョー、そして
フランソワーズ となる予定である。
「 え〜〜〜 諸君! 諸君らの帰国を前に! ジェロニモ Jr.から提案があった。 」
それぞれの出発を前にグレートが全員を集めた。
「 なんだよ〜〜〜 」
「 ふむ。 我らが本拠地の庭にな ― 植樹しよう というのだ。 」
「 しょくじゅ??? なんだ それ〜〜 」
「 ! ほっんとうにお前はモノしらずだな! 樹を植えることだ。 」
「 木ぃ?? あ そんならオレ バナナとかメロンとか食えるヤツがいいな! 」
「 ・・・ メロンが木に生ると本気で思っているのか?? 」
「 見たことね〜もんな〜 あ 喰ったこともね〜けど〜 」
「 外野は無視してハナシを進めよう。 」
「 んだよ〜〜〜 」
「 煩い! 」
「 ぼく賛成です〜〜 いいよね〜〜〜 庭が賑やかになるね〜〜〜 」
珍しくジョーが口を挟む。
「 ご一同ご賛同、願えるかな? 」
「「 お〜〜〜〜〜 」」
「 では〜〜 さっそく準備に掛かろうぞ。 」
「 ほっほ〜〜 皆はん、希望があればワテにいうてくれはりますか。
なんでもエエよ、ちゅうことやったらワテが選びまっせ〜〜 」
大人は大ニコニコで張り切っていた。
「 へへ! 好きなヤツ頼んでいいのかよ? 」
「 好きなってアンタ、 沙羅双樹ぅ言うても困るけど〜 出来る限り調達しまっせ〜〜 」
「 しゃら・・? ってのは知らね〜けど! オレ・・・ バナナ!! 」
すぐにジェットが宣言した。
「 バナナ!? ・・・ よろしおま。 皆はんもなんぞ考えといてや〜〜 」
「 あは 楽しいなあ〜〜 え〜〜と ぼくはね 柿。 いいかなあ? 」
ジョーが楽しそうに言う。
「 ほう〜〜 これは楽しいのう・・・ ワシも少し考えてみるかな。 」
博士も笑顔であれこれアタマをひねっている。
「 ほんならなるべく早く言うてや〜〜 」
木 ですって?? この荒地に??
無理無理 〜〜 どうせすぐに枯れてしまうわ
無駄な努力よねえ・・・
フランソワーズは相変わらず無表情で 仲間達の様子を眺めていた。
― そして後日、サイボーグ達はまだ建設中の邸の庭に集まった。
かなり広い庭のぐるりにそれぞれの木を植えよう! というのだ。
パパァ〜〜〜 !!! 派手なクラクションを鳴らし 小型トラックが入ってきた。
「 お〜〜い!! 植木屋から引き取ってきたぞ〜〜〜 降ろすのに手を貸してくれ〜〜 」
助手席からグレートがぶんぶん手を振っている。
「 おうよ! 今 行く。 」
「 むう。 」
庭で準備をしていたアルベルトとジェロニモ Jr.が門まで飛んでゆく。
「 あ〜〜〜 ぼくも手伝うよ〜 ジェット! きみも来てくれよ ! 」
「 ちぇ ・・・! めんどっちぃぜ 〜〜 」
ジョーがぐいぐい赤毛を引っ張ってくる。
「 ほいほいほい〜〜〜 ほんじゃ〜 木ぃを紹介するデ。 皆はん おるかネ? 」
「 えっと・・・ あ 博士とフラン、呼んでくるね! ・・・ ああ 来た来た ・・・
お〜〜い フラン〜〜〜! あ イワンも一緒だね〜〜 」
ジョーが玄関の方にぶんぶん手を振っている。
「 ほっほ〜〜〜 そんなら木ぃを配りますよって・・・ 」
「 あ〜 ぼくも手伝うよ〜〜 」
「 ジョーはん、謝謝〜〜〜 ジェロニモはん、まずはオオモノから頼むで 」
「 俺 庭まで運ぶ。 」
「 ほいほい。 そしてら〜〜 松からや! これはギルモア先生にやで〜〜
松の長寿にあやかりはってくださいや〜〜 」
「 ほお〜〜 いい枝ぶりじゃなあ〜〜 」
「 次はぁ〜〜 菩提樹や。 アルベルトはん あんさんの注文でっせ〜 」
「 おう ダンケ。 この地に根付くといいがな 」
「 世話次第でっせ。 えっと〜〜 」
大人は次々に木を渡してゆく。
グレートにはモミの木を、 ピュンマには南国の蘇鉄、ジェットには注文通りにひょろりとした
バナナ。 イワンは針葉樹で桧葉。 ジェロニモJrは これも希望で桜。
「 え〜〜っと ああ これやこれや。 ジョーはん〜〜 柿でっせ〜〜〜 」
「 あ ありがとう! ぼくの木だね 」
「 甘い実ぃ 生るとええなあ〜 ワテはこれや! 銀杏やで。 お〜〜っと!
大事な木ぃを忘れるとこやった・・・ 」
大人は一番奥から大切そうに丈の低い苗を運んできた。
「 …と。 フランソワーズはん〜〜 あんさんの木ぃやで〜〜〜 」
「 ・・・ ありがとうございます、大人。 それは なに? 」
「 これはな。 あんさんにぴったりの木ぃやで。 白梅や。 」
「 はくばい?? 」
彼女は葉っぱも少なくごつごつとした黒い苗を 訝し気に眺めている。
「 せやで。 まあ ・・・ 春を楽しみにしてや〜〜
」
「 春? ああ 春になれば葉っぱも増えるのかしら。 」
「 葉っぱだけじゃあらへんで〜〜♪ まあ楽しみにしててや〜〜
皆はん〜〜〜 ほんなら植えまひょか〜〜〜 」
「 あ ぼくが持つよ それ。 」
ジョーがひょい、と彼女の苗を持ち上げた。
「 ありがとう、ジョー。 ジョーの木もなんだかゴツゴツしてて葉っぱもないのね? 」
「 え ああ これ? ウン、柿は広葉樹だからね〜〜 秋には紅葉して落ちるんだ。 」
「 へえ ・・・ 詳しいのね。 」
「 この木、好きなんだ。 あ〜〜〜 何時 実が生るかなあ〜〜 」
「 実?? 実がなるの?? 」
「 あれ 柿ってしらない? 」
「 かき? 知らないわ。 」
「 あ〜〜〜 パリには柿ってないのかなあ・・・ 秋に採れる果物なんだ。 」
「 果物? ・・・ ああ リンゴみたいなもの? 」
「 ちょっとちがうけど・・・ オイシイよ〜〜〜 」
「 ふうん ・・・ 」
フランソワーズはごつごつした貧相な苗をちらり、と眺めそれきり口を閉ざした。
「 え〜〜と? それじゃどこに植えようか。 ぼくのは〜〜 でかくなるから端っこの方が
いっかなあ〜 きみの木は ああ ぴったりだね。 」
「 ぴったり?? これ・・・ このゴツゴツして黒いのが ? 」
「 あは そりゃ今はね。 でもね〜〜 白くて可愛い花がたくさん咲くんだ。
うん・・・ たしかとてもいい匂いで さ。 」
「 あら 詳しいのね。 」
「 柿と白梅、ぼくが暮らしていた教会の庭にあったんだ。
柿の実はさあ〜〜 こっそり登って齧って ― すげ〜〜〜渋かった! 」
「 あら 実は渋いの? 」
「 渋いのと甘いのがあるみたい。 あ たしか接ぎ木とかすれば甘くなるんだったかな〜〜〜
でもね あの渋さって〜〜 強烈でさ、二度と盗み喰いはしません! って思ったよ。 」
顔を顰めつつも 彼は楽し気に語る。
ふうん ・・・ この人が思い出話するのって
初めてきくわねえ ・・・
そっか 施設育ちって言ってたっけ・・・
「 白梅はね、春の初めい咲くよ。 あの香ってとっても甘くてお菓子みたいだった・・・ 」
「 へえ ・・・ 」
そんな木ってあるの?
ふうん ・・・ ま 次に花が咲くまでここに無事に居られるかしら・・・
「 うん ・・・ やっぱりきみの木はね、日当たりのいいとこで皆が見れる場所がいいよ。
きっとさ〜〜〜 きみの木のお蔭で皆 春がきたね〜って喜ぶと思うんだ。 」
「 そう? 」
「 うん! ぼくも ・・・ 嬉しいもん。 」
ジョーはなぜか長めの前髪に陰で ぽっと赤くなっている。
「 そう。 」
・・・ なんか変わったコね?
花の香が欲しいなら 花束とか買ってくればいいじゃないね?
「 う〜〜〜ん なんか いいなあ。 こうやって 庭 って出来るだね。」
彼は穴を掘ったり水を運んだりしている仲間たちを眺め ご機嫌だ。
「 まだ木を植えただけじゃない? お庭って・・・ 花壇とかなくちゃね。 」
「 あ そうだよねえ〜〜 うん、家が出来上がったら、こことここと〜〜
そうだ 玄関までの道の脇にも花壇作ろうよ。 何の花、植えようか? 」
「 ・・・ わたし 園芸って詳しくないわ。 」
「 ぼくだってさ。 小学校で アサガオの観察して、 ヘチマ植えたくらいだもん。
あ〜〜 グリーン・カーテンとかいって中坊のころにゴーヤを植えたなあ 」
「 そうなの。 」
ふうん・・・ このコ、今日は珍しく饒舌ねえ・・・
そろそろ中に入って手を洗いたいんだけど。
・・・ それに秋っていってもこんな海っぱただもの、
日焼けちしゃう・・・
「 皆 終わったみたいね、 じゃあわたし中に入るわ。 」
「 あ そう? 晩御飯の準備とか手伝うよ? 」
「 張大人がやってくれるから大丈夫よ。 」
「 うん ・・・ でもさ 10人分だろ? 大変だよ〜〜 やっぱ手伝うね。
ちょっとその前に〜〜 皆の木を見てくる! 」
「 はいはい どうぞごゆっくり・・・ 」
彼は仲間たちのところへぱたぱたと駆けてゆく。
へえ ・・・ なんだか子犬みたいねえ ・・・
009と同一人物ってちょっと信じられないわ
・・・ BGって随分変わった人を浚ったのねえ
あ〜〜〜 いつまでも日向にいたら日焼けしちゃうわ
手も汚れてしまったし。
・・・ さっさと引き上げてカフェ・オ・レでも飲みたいわ
彼女はちょっと肩を竦めると そそくさと家の中に入っていった。
邸はまだ完成していない。 建物は出来上がったが内装が完全ではないのだ。
簡単な煮炊きは可能なので 彼らは建設作業が休みの日には誰彼ともなくここに来ていた。
「 ・・・ えっと? キッチンは使えるのよねえ・・・ 」
ドアを開けると、先客がいた。
「 おや お讓さん。 お邪魔しておりますぞ。 」
「 あら コズミ先生。 ギルモア博士は庭ですわよ? 」
「 はい。 ちょいと咽喉が乾きましてなあ・・・ 」
「 まあ それでしたら カフェ・オ・レ いかが? 今 淹れようと思って ・・・ 」
「 ほ〜ほ〜 パリジェンヌさんのカフェ・オ・レですか〜〜 それは楽しみですな、
是非是非お願いしますよ。 」
「 うふふ・・・普通のカフェ・オ・レですわ? 材料は近所で買いましたし。 」
「 いやいや 本場の方のお手製は一味違いますがな。
ところで ・・・ 庭の植樹はもう終わったのですかな。 」
「 さあ・・・ まだ皆騒いでいるみたいですわ。 」
「 そうですか。 いやあなかなかいい思い付きじゃなあ〜と感心しております。
いずれこの地に根を下ろそう、という決意のしるしですか・・・ 」
「 さあ・・・ 」
「 あまり興味はお有りなさらんようですなあ。 」
「 はあ・・・ 植物にはあまり詳しくありませんの。 」
「 それでお嬢さんは何の木を植えなすった? 」
「 あ・・・白梅 とか聞きました。 ゴツゴツした不格好な木でしたわ。 」
「 おお〜〜〜 白梅! それはそれは・・・ 貴女にぴったりの木ですなあ〜
選んだ御人はお目が高い〜〜 」
「 そ そうですか? 」
「 はいはい。 白梅は早春を飾る春の使者、いやいや春の女神ですよ。
この国の人は桜も梅も好んで植えます。 梅は花も美しいがいい実が生りましてなあ〜
梅酒にする楽しみもありますじゃ。 」
「 ま あ ・・・ 初めて聞きましたわ。 」
「 外国の御方には不案内かもしれませんが ・・・ 大事にしてやってください。
春が楽しみになりますよ。 」
「 そうですか ・・・ はい カフェ・オ・レ。 どうぞ 」
カチン ― 湯気のたつカップがコズミ博士の前に置かれた。
「 ふんふん〜〜〜 これはまたいい香り・・・ なにかスパイスでも? 」
「 あ はい・・シナモンを少し・・・ 」
「 それは素晴らしい。 ご馳走になりますよ。 」
コズミ老は にこやかにカップを持ち上げた。
「 〜〜〜〜〜 ん〜〜 これは美味しい! うんうん 〜〜〜
お上手ですなあ〜〜〜 」
「 まあうれしいですわ。 これは兄に習った淹れ方ですの。 」
「 ほう〜〜 兄上に・・・ 」
「 はい。 ・・・ あ お代わり、如何ですか? 」
「 ほっほ・・・ では遠慮なく。 」
「 はい。 ちょっとお待ちくださいね〜 」
バタンッ ― ドアが開いてどやどやと仲間たちが戻ってきた。
「 お♪ い〜〜 匂い〜〜 あ ずりぃ〜〜な〜〜〜 俺にも! 」
先頭で飛び込んできた赤毛が声高に喚く。
「 ったく煩いヤツだな! ? ・・・ お? なにかスパイスか? 」
アルベルトは鼻先で匂いを捕まえた。
「 はいはいはい〜〜〜 今 オヤツにしますよって〜〜〜
ん?? ええ香や〜〜〜 フランソワーズはんの オ・レ ですかいな〜 」
「 まあ 大人〜〜 どうしてわかったの、 凄いわぁ〜 」
「 ふふふ〜〜ん ワテのハナを甘く見てはあかん。 」
料理人は自慢気にまるまっちい鼻を蠢かす。
「 ほんなら オヤツも作るデ〜〜 」
「 お手伝いしますね 」
「 う〜〜〜〜 いい匂いだね〜〜〜 なになに?? 」
「 ふふん・・・英国紳士はカフェも十分に嗜むぞ。」
「 カップ、人数分あるか? 」
「 地下ロフトに荷物ある。 取ってくる。 」
「 あ〜〜〜 ジェロニモ〜〜 ぼくも手伝う〜〜〜 」
「 なあ コークねえ?? 俺 コーク飲みて〜〜〜 」
わいわいがやがや・・・ かなり広くとってあるリビング ( になる予定の場所 )
はたちまち満員になった。
「 あ〜〜〜 お代わり〜〜〜 」
「 はいはい ちょっと待ってね 」
「 フランソワーズはん、ワテ手伝いまっせ〜〜 」
「 ありがとう、大人! え〜と ・・・ 」
二人はてんてこまいでキッチンとリビングを行き来した。
「 な〜〜〜〜 ナンか食い物、ねえの?? 」
「 え ・・・ 食材とかもってきていないわ。 飲み物だけよ。 」
「 そんなら買ってくる! 駅の方にマーケット あるよな? 」
「 ええ 駅の向こう側の大きなスーパーマーケットがあるわ。 」
「 おしっ ! 」
ジェットは2〜3歩 ステップを踏むと 次の瞬間にはテラスから飛び出していた。
「 ! ったく〜〜 気の早いヤツだな! お〜〜〜い てめ〜 金 あるのかっ 」
アルベルトがテラスに追い掛けてゆく。
「 あ〜〜〜〜 ? ねえよ〜〜 頼む! 」
空中から返事が降ってきた。
「 な〜〜にの考えてねぇんだから! ほらよっ !!! 」
「 〜〜〜〜 っと。 サンキュっ 」
弾丸みたいに投げられた財布をナイス・キャッチすると そのまま飛んでいってしまった。
「 ほっほ 相変わらず抜群のコンビ・プレーじゃのう 」
「 ヤツがバカ丸出しなだけだっ! 」
「 いやいや〜〜〜 大層息が合っておったぞ? 二人の共演に乾杯〜〜 」
グレートがかなりのご機嫌でテラスに出てきたが 足元がふらついている。
「 ?? グレート??? やだ〜〜〜 酔っぱらってるのぉ〜〜 」
「 ? あ〜〜〜 紅茶にウィスキーがしこたま〜〜〜 」
ピュンマがグレートのカップをくんくん・・・嗅いですぐに看破した。
「 ま〜〜〜 よいではないか〜〜 諸君〜〜〜 記念の植樹もしたし〜
今日はここで我らが居住地完成の前祝い♪ と洒落こもうではないか。 」
「 グレートはん! あんさん、どこにウィスキー、もってはったんや? 」
「 それはそれ、紳士の嗜み〜〜 博士〜〜 ささ 一献〜〜〜 」
「 いやア〜〜 これは ・・・ 」
ティー・タイムは どうも酒宴へと移りそうな気配だ。
ドドド −−−− ・・・! 突風と一緒にジェットが飛び込んできた。
「 へ〜〜い おまち〜〜 ピザやらチキンやらマキズシやら〜〜〜
どど〜〜〜んと 買ってきたぜ〜〜〜 」
「 お〜〜〜〜〜!! 」
「 はっやいなあ〜〜 さすがマッハのオトコ〜〜 」
完成前のリビングは たちまち宴会場に早変わりした。
飲んだり食べたり ― 賑やかに盛り上がり始める。
「 ん〜〜 んまい〜〜〜 フラン〜〜 喰ってるかぁ〜〜 」
「 ちゃんと頂いているわよ。 ・・・ あら。 ジョーは? 」
「 うん? ああ ジョーってばまだ水やってるみたいだよ、 ほら? 」
「 え?? 」
ピュンマの指す方向を見れば 木の側で行き来する人影が一つあった。
「 まあ・・・ お茶、飲んでいないのかしら・・・ ジョー〜〜〜〜 」
フランソワーズはエプロンで手を拭きつつ 庭に駆けだしていった。
「 ・・・ 賭けるか? 」
「 ああ。 カップル成立に10ユーロ。 」
「 吾輩も! 成立に20ユーロ! 」
「 なんだ それじゃ賭けは成立せんぞ〜〜 」
「 はっはっは ・・・ ま いいってコトよ 」
独英同盟が密かに成立していた。
秋の夕方、庭はもう薄墨色の空気がたちこめていた。
「 あら ・・・ 結構冷えてきたわねえ・・・ ジョー? どこ ・・・? 」
慣れない庭には まだ石だの土くれだのが散乱していて、足を取られてしまう。
「 ・・・! あ〜〜ん ・・・ もう・・・ ジョー〜〜〜 どこにいるの〜〜 」
「 ? フラン ?? 」
薄闇の向こうからひょっこりセピアの髪が現れた。
「 あれ なんだい? 」
「 なんだい、じゃないわよ〜 いつまで庭にいるの? なにしているのよ。 」
「 え ・・・ ごめん、木達に水を上げてたんだ〜〜 」
「 水 ? だって植えてた時に撒いていたでしょ? 」
「 うん ・・・ でも地面も乾いてたし・・・ 水 オイシイかな〜って思ってさ。
なんかさ〜〜 自分の木 なんてワクワクするよね! 」
「 自分の木? 」
「 ウン。 ぼくだけの木 なんてすごく嬉しい! ヨロシク! って挨拶しちゃった。
こんな大きなモノがぼくだけのものだってなんだか信じられないなあ〜 」
ジョーは目の前のひょろり、とした黒っぽい木の苗を 目を細めてみつめている。
「 ジョー。 アナタって ・・・ ほっんとうに ・・・ 」
「 え なに? 」
「 ・・・ ううん なんでもないわ。 ねえ ねえ手伝うから。
早く水やりを済ませて〜〜〜 お茶よ! ジェットが食べるものも買ってきて
もう〜〜〜 宴会になってるのよ〜〜 」
「 あは 〜〜 いいねえ 」
「 さ 急いで〜〜 あら? もうこの木には水がやってあるわね。 」
「 うん、ぼくのカーキーには一番先に水をあげたから。 」
「 ・・・ か〜き〜 ・・・??? 」
「 そ、コイツの名前さ。 柿の木 だから カーキー。 あはは・・・ 単純だね。 」
「 ・・・ あなたの木なんだからジョーの自由でしょ。あら じゃあ何に水を上げていたの?
ジョー、びしょびしょじゃない? 」
「 あ〜〜 うん、如雨露がなくてバケツの水をこう〜〜 ばしゃばしゃやったからね。
うん、皆の木にも水をやったんだ。 きみの うめこちゃん にもたっぷり! 」
「 もしかして 梅の木だから うめこ? 」
「 あたり〜〜♪ あ・・・ うめこちゃんって呼んでもいいかな。 」
「 お好きにどうぞ。 さ 早く水やり終了しましょう! え〜と これはジェットの
バナナね。 ・・・ この国でバナナが採れると思っているのかしらね? えいッ 」
ざば〜〜 ・・・ バケツの水の半分が流れ出た。
「 あ・・・! ダメだよ〜〜 もっと少しづつあげなくちゃ。 」
「 あ あら そうなの? 」
「 ウン。 植物だってさ〜 いきなりの引っ越しで面喰ってるところだもの。
初めての食事は少しづつゆっくり ・・・ さ。 」
パシャ パシャ パシャ ・・・
彼はバナナの木の根方にしゃがみこみ バケツから手で水を掬っては木の周りの土に撒いている。
はあ ・・・ なんて悠長な・・・
というか 気が長い いえ のんびり?
・・・ あ〜〜〜〜 イライラしてきたわっ
「 わかりました。 ジョーの言う通りにやります。 わたし あちら側の木の担当ね! 」
「 お願いしま〜す。 あ そんなに急がなくてもいいよ〜〜〜 」
フランソワーズは バケツを持ち上げるとダッシュしていった。
ジョーは相変わらず 彼のカーキーの横でにこにこしていた。
サイボーグ達の拠点となる邸はなんとか完成したが < 家 > は まだイレモノだった。
彼らは必要なパーツを並べ ごっこ遊び を楽しんでいるだけ ・・・ だったのかもしれない。
その穏やかな日々は 程無くして幕を閉じた。
彼らは再び 赤い服を纏うこととなり ― 地下帝国へと旅立っていった。
そして。 彼らはかえってきた、瀕死の二人をつれて。
建築したばかりの研究所は 原因不明の失火により焼失、ということになっている。
地下のメンテ・ルームと基地、格納庫だけはなんとか無事だったので 彼らは重体の仲間を
運び込み やっと一息つくことができた。
おい ・・・ 木が 木が ・・・ 残ってる ぞ ・・・!
地上の様子を調べに出たグレートの声が 切れ切れに聞こえてきた。
Last updated : 11,04,2014
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〜 ポニョ じゃあないですよ〜〜〜 >> タイトル
え〜〜〜 平ゼロ設定なので ヨミ前に全員一緒に
暮らす短い日々があるってことにしています。